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違法な水産物との闘いで大きな勝利 – その原動力となった連携からの学び

違法・無報告・無規制 (IUU) 漁業は、世界的な問題であり、毎年3,200万トンの水産物を海洋から奪い、その量は世界中で消費される水産物の約四分の一に相当する。IUU漁業は乱獲の一因であり、沿岸の漁業コミュニティの生活と食の安全を脅かしている。また、違法漁業の追跡に用いられる技術によって、これらの船舶に関連する強制労働の事例も確認されている。IUU漁業の撲滅には、グローバルで協調的な解決策が必要である。なぜなら、一国が違法な水産物の取引を禁止しても、そのような法律が無い国へと簡単に転用されてしまうからである。

日本では、昨年12月に、天然の水産物には漁獲証明書を、輸入された天然の水産物には輸出元の政府発行の漁獲証明書を義務づける新しい法律が成立した。これは、日本国内外の自然保護団体で構成されるIUU漁業対策フォーラムが5年間に亘って行ってきた活動の成果である。「この新しい枠組みによって、日本の水産物市場からIUU漁業のリスクが排除され、正しい行動をする事業者が正当に評価されるようになるだろう。 」と同フォーラムメンバーの(株)シーフードレガシー代表、花岡和佳男氏は述べている。

この新法によって、日本は世界の水産物市場の60%を占める米国とEUに続き、追跡可能で合法的に捕獲される水産物に対して厳格な要件を課すことになる。世界の自然保護団体は、この大きな一歩を祝福し、中でもザ・ネイチャー・コンサーバンシーは 「この新しい法律は、IUU漁業との世界的な闘いにおいて歴史的な瞬間を示すものであり、日本は、米国やEUとともに違法事業者に対して明確で強力なメッセージを送ることになる。違法事業者は、もはや、この世界3大水産物市場において違法な水産物を販売する機会を見い出すことが非常に困難になるだろう。」とコメントした。

IUU漁業対策フォーラムの取り組みから、他国や他の課題における支援活動にも応用可能な3つの重要な教訓は以下の通りである。

  1. 大陸間を越えた連携は不可欠だが困難を伴った。日本のNGOは、米国・EUの取り組みに沿った強力な法律を日本で策定するために、米国・EUの組織と緊密に協力する必要があったが、彼らには既存の協力関係が無かった。そこで日本のNGOのドナーはまずすべての関係者を集め、共通の目標を模索し、この法律を提唱する上で各自が果たすべき役割を明確にすることで、このパートナーシップを築くための土壌を作った。信頼関係の構築に時間をかけたことで、COVID-19や首相交代等、日本国内が不安定な状況下でも、その協力関係が強固でレジリエントな基盤を築き、最終的には重要な政策的勝利を収めた。
  2. IUU漁業に対する解決策を受け入れられるようになる前、日本の企業や行政機関はIUU漁業が自国に与えるインパクトを理解する必要があった。2015年当時、日本ではIUU漁業はあまり知られていない課題であった。同フォーラムが第一段階として取り組んだのは、 違法な水産物が日本の経済的利益に与えるリスクに関する意識を高めること、そして水産庁および日本の立法府である国会に対して、意欲的ながらも達成可能な政治的優先事項を強調することだった。同フォーラムは、日本における違法な水産物の蔓延について、確固たる証拠に基づく多面的な説明を行った。日本のIUU漁業対策が諸外国に比べていかに遅れているかを示すランドスケープ・アセスメント、IUU漁業による国内水産業の経済的損失に関する定量分析、トレーサビリティの向上に対する水産業界からの要求を示す世論調査等、様々なトピックの研究が改革の必要性を論じた。また日本のメディアもこれらの報告書の内容を詳しく報じた。
  3. 新法がもたらす国内漁業者のメリットに焦点を当てることが、支持を高めるのに役立った。IUU漁業対策フォーラムの米国メンバーは、2018年に米国で水産物輸入監視制度に関する法律が成立した際の取り組みで得た教訓を共有した。それは違法な輸入水産物を排除することで、米国の国内漁業がいかに強化されるかを明らかにすることが同法律への支持を集めるのに効果的、ということである。日本においても同様のメッセージが用いられた。「日本海で操業する違法イカ釣り漁船や日本海域内で横行するナマコやアワビの密漁は、地域の漁業者の妨げとなる。国内外で違法に調達された水産物が日本市場で取引されないようにすることで、不公平な競争を排除し、既存のルール・規制を順守している国内漁業者の収入が安定するようになる。」このメッセージは、国内漁業の経済的利益を守りたいという地域の漁業関係者と日本政府両者からの支持の獲得に役立った。

日本で新法が成立したことは喜ばしい事実ではあるが、IUU漁業対策フォーラムの取り組みは、これで終わったわけではない。同フォーラムは、現在、対象となる魚種、電子データ収集による漁業者・サプライチェーンの負担軽減、米国・EUの法律と漁獲証明要件との整合性等、新法の施行に向けた厳格な規制の提唱に注力している。

また、水産物の他の2大市場である中国と韓国においては、強力な輸入規制法が制定されなければ、違法な水産物が単にこれらの市場へ転用されてしまう可能性がある。幸いなことに、民間企業の間では、世界中で法律の強化を求める機運が高まっており、2月には、150以上の企業が協力し、違法な水産物取引撲滅に必要な輸入規制の強化を世界各国の政府に要請した。